モビールって何だ?
モビールを知らない人、聞いたことはあっても見たことはない人にわかって
貰うためには、言葉を連ねて説明するよりも譬え話が早いのかも知れません。
そこで、モビールとは女性にとってのイヤリングみたいなもの、建物の内部に 係わる装飾品という意味では、生け花や絵や彫刻みたいなものといえば わかっていただけるでしょうか。 つまり、美しくありたい女性を、より魅力的に見せるための小道具であり 重厚であったり、軽快であったり、落着いていたり、賑やかだったりする部屋を 一層きわだたせたり、ちょっと引いて安心させたりするための仕掛けなのでは
ないかと思っています。
そうであるのなら、モビールはお部屋のアクセサリーです。 女性の美しさのほとんどは、ご当人の生来の美しさを別とすれば服や 帽子や靴やハンドバッグ等の故なのでしょうが、それ等にたいした差が ないのであれば、ブローチや指環やネックレスが人目をひくでしょうし 顔の近くにあってちらちらと揺れるイヤリングは例えどんなに小さくても
気にならない筈がありません。
絵画・彫刻との比較でいえば、完成し成熟したそれ等が、あらゆる 時代のあらゆる分野に受け入れられ、建物の内外を問わず、生活を 豊かにするための手段として活用されてきたのにくらべ、発展途上の モビールは残念ながら子供のオモチャといった程度の評価しか
得られていないように思えます。
その一方でモビールには一般の認識や常識的な評価を越える 大きな可能性があることも忘れてはいけないと思っています。 理由は二ツあって、第一に人間の目が動きに反応するように進化して きたこと、第二に室内を装飾するための手段は床面も壁面も天井も
開発し尽されており、残っているのは空間だけだという現実にあります。
前者について考えてみましょう。 浜辺に腰をおろして、静かな海と向き合っている自分を想像してみて下さい。 波一ツない青い海、雲一ツない青い空、日常から解放され大自然に抱かれる 爽快感・充実感を理解出来ない人などいよう筈がありません。一方でもったいない 程の大自然ではあっても変化のない海と空とを見続けていると、やはり私達は 注意力も集中力も散漫になってきます。波の一ツもたてばいい、鳥の一羽も飛べば いい、と注文をつけたくなってくるものです。家庭であれ病院であれお店であれ ホテルであれ、事情は同じである筈です。応接間の見事な調度品も店舗のデザインや 品揃えもホテルの窓から見える景色も、各々のグレードを象徴する不可欠な要素では ありますが、それはそれとしてちょっとした遊びがあればもっといいのに、と思えてくるのは
仕方のないことなのではないでしょうか。
後者についてはどうでしょう。 ゆとりのある家庭では、立派なジュウタンを敷き、ソファーもシャンデリアも ステンドグラスも壁に掛かった絵や書や、その他のデコレーションもほとんど 完璧にそなわっているのでしょう。誰もが感嘆の声をあげ心豊かな気分を 味わうであろうことに疑問の余地はありません。 でもちょっと待って下さい。神が造り給うた大自然にでさえ退屈する 人間の本性を思えば新鮮な感動がいつまで続くのか、はなはだ心もとない
気がしてきます。
それが可能なのか不可能なのかはさて置いて、モビールはそこに くい込むための一ツの手段なのではないか、と考えています。 主役である海や空をひき立てる一艘の舟、一羽のカモメであれば それで充分です。図書館や保健所の片隅で揺れているだけで 洗面所や台所で揺れているだけで、それをぶら下げた人の気持が 思われて心和むではありませんか。脇役は出過ぎてはいけません。
主役の陰に隠れながら、時にキラリと光ってみせるのです。