モビールブログ · 2月 5, 2012

祇園町有情

今、幕を開けたばかりの舞台のように、夕刻の祇園町は静かな ざわめきと、はなやぎの兆しに満ちていた。 すだれ越しに白川が流れ、職人風の男が急ぎ足で角を曲がったか と思うと、その角から子連れの粋なお姐さんが現れたりして

見たこともない、明治・大正をほうふつとさせる趣であった。

この座敷に来るのは初めてだった。 昔、芸妓で出ていたという今は八坂の塔の下で、おそうざいの 店を開いている知り合いのおばさんの娘さんが、晴れの 舞妓デビューをはたしたとかで、最近私の近辺は にわかに祇園町と近しくなった。卒業して東京に行けば 京都の話題が出た時の話の種くらいにはなるだろうと

親父は私を連れてきた。

“こんばんは” “おおきに” と声がして芸妓さんと舞妓さんが入ってきた。 びんつけ油に白粉の匂いが流れ、祇園言葉がいきかった。 “頼まれてたヤツ、買うてきたったデ” と親父は繭人形屋の紙袋を指さした。 モビールを受取る舞妓さんの指が手渡す私の指に重なった。

伊豆の踊子をふと思う、京都の夏の夜だった。